この夏、第70回ベルリン国際映画祭(銀熊賞)、サンダンス映画祭2020(審査員ネオリズム特別賞)など、海外で様々な賞を獲得した作品、監督エリザ・ヒットマンの第三作「17歳の瞳に映る世界」が公開される。キャストには本作がデビュー作品にも関わらず、主人公のオータム役でニューヨーク映画批評家協会賞(主演女優賞)を獲得した新鋭シドニー・フラニガン。22歳ながら、17歳のスカイラー役に抜擢され、2021年の12月公開の監督スティーブン・スピルバーグ『ウェスト・サイド・ストーリー』にも出演が決定しているタリア・ライダー。オータムの父親役には、2018年からアメリカで放送されている人気ドラマ『ニューアムステルダム 医師たちのカルテ』で主人公マックス・グッドウィン医師を演じている大物ライアン・エッゴール。オータムの母親役には女優兼シンガーソングライターで今作品の主題歌『Staring at a Mountain』を務めるシャロン・ヴァン・エッテン。個性的なメンバーが名を連ねている。
セリフが少なく、音や映像の良さ、ストーリーで訴えかけてくる作品の中、キャストたちの名演技に心打たれるだろう。特に注目してもらいたいのは、脚本の内容だ。監督が実際にアイルランドの女性が中絶する事ができずに亡くなってしまったと言う記事を目にし、「もし同じ事がニューヨークで起きたら」と言う考えからアイディアを得たと語っている。実際の出来事をモデルにしたリアルな脚本は、アメリカで多くの女性が直面する性的な問題、宗教的問題、政治的な問題に深く切り込み、表現している。
今作品は主人公オータム(シドニー・フラニガン)の突然の妊娠から始まり、アメリカが長年抱えている「中絶」をテーマに話が展開されていく。アメリカの田舎には保守的な町が多く、未成年、成人問わず、堕胎を禁止している。オータムが住むペンシルベニア州の町もその一つで、親の許可が無いと堕胎ができない。親には頼る事ができず、一人で町のクリニックへ向かうのだが、事態はより悪化していく。クリニックと呼ばれ、医療機関のようにも思われるが、そのほとんどはキリスト教徒関連の非営利組織で、市営のボランティア施設なのである。このような団体は、医療義務が無く、宗教上の理由から中絶には反対の立場である事が多い。事情を知らないオータムはカウンセラーたちから中絶に反対する意見を押し付けられてしまう。そんな時、親友のスカイラー(タリア・ライダー)がその状況に勘付き、二人で堕胎に親の同意が必要ないニューヨーク州に向かう事になる。
しかし、ここから二人に容赦のない男たちのハラスメントが襲いかかってくる。バスの中でしつこくナンパする男ジャスパー(テオドール・ぺテラン)、ニューヨークの地下鉄でオータムの前でズボンのジッパーを下ろす男性など、二人が悪い男たちに捕まってしまうのではないかというハラハラするシーンが続いていく。この先の展開はどうなっていくのか?そして、二人はどのような成長をしていくのだろうか? と目が離せなくなる。
「17歳の瞳に映る世界」は7月16日TOHOシネマズ、シャンテ他、全国公開される。監督を務めたエリザ・ヒットマンの作品としては初めて、日本での公開となる。「語り継がれる作品だ(映画評論家ロジャー・イーバート)」「傑出している(ニューヨークタイムス)」など2020年3月にアメリカやイギリスで公開後、海外の辛口のメディアや批評家たちが口々に絶賛している元。“Rotten tomato”と言う映画批評サイトでも230レビューされ、支持率は99%とかなり高い(2021年7月14日時点)。
海外では絶賛されている作品だが、二人の世界は日本に住む私たちにはどのように映るのだろうか?もしこのような問題に直面した時あなたなら、手を差し伸べられるだろうか?「Never」「Rarely」「Sometimes」「Always」。あなたの答えはこの映画の中にあるかもしれない。
(文:井草優元)
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出演:シドニー・フラニガン、タリア・ライダー、セオドア・ペレリン、ライアン・エッゴールド、シャロン・ヴァン・エッテン
監督・脚本:エリザ・ヒットマン
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